第4回 一般社団法人 田辺市熊野ツーリズムビューロー

2012 年 10 月 9 日


2006年、前年の市町村合併に伴い域内の5つの観光協会を統合し誕生した「一般社団法人 田辺市熊野ツーリズムビューロー」。2010年には法人格と共に旅行業第2種も取得し、広域の旅のコンシェルジュとして本格的に始動。紀伊半島南部をカバーする着地型旅行予約サイト「KUMANO TRAVEL」も運営し、国内外に向けて積極的にプロモーションを展開するDMOです。田辺市熊野ツーリズムビューローの多田稔子会長が紹介します。


※本文中、プラットフォーム=DMOを敢えてDMC(Destination Management Company)と表現しています。これは、田辺市熊野ツーリズムビューローが“企業”(Company)として、プロモーションと併せて雇用の確保・地域経済の発展に寄与することを目的としているところによるものです。


世界遺産熊野古道




地域の概況およびプラットフォーム(DMO)の動きが出てきた背景


田辺市は和歌山市から南へ特急で約1時間。2005年の市町村合併によって和歌山県の約4分の1(太平洋から奈良県境まで!) を占める広さとなり、世界遺産・熊野古道のすべての道の結節点である熊野本宮大社旧社地(大斎原:おおゆのはら)、湯の峰・川湯・渡瀬・龍神温泉など、世界に通用する観光素材を持つ一大エリアになりました。


翌年の4月には、新たに田辺市となった5つの観光協会(田辺・龍神・大塔・中辺路・熊野本宮)が構成団体となって田辺市熊野ツーリズムビューローが設立されました。


設立にはもちろん、紆余曲折がありました。


5つのエリアが共にプロモーションなどを行えば、これまでにない効果が期待されるという点については多くの理解があったものの、「広大なエリアを舞台に果たして機能的な組織をつくることが可能なのか?」という懐疑的な声もありました。


最終的には、旧市町村単位の観光協会を存続して地域事業を維持し、かつ「全体に関わるプロモーションやDMC事業に特化した新組織」をつくり、事業的な住み分けを行うことで決着しました。


当然、それまでも、たとえば県などと一緒に海外にプロモーションに出かける、モニターツアーを受け入れるなどしてきました。


しかし、そこで繰り返されていたのは、エージェントからの送客がほぼ全く望めないまま情報だけを流す―――といった「どの地域にもよくある失敗」でした。


特に熊野古道の場合は、民宿など宿泊施設の多くが大手旅行社の契約対象ではありませんから、なかなか手ごたえが得られない年月を過ごしました。


そのため、この経験を活かし、新組織では設立後の4年間を「田辺市全域と周辺市町村を含めた広域的視野に立った質の高い観光情報の発信」、「受入れ地のレベルアップ」を行う期間と位置づけました。


そして5年目の2010年5月、組織を法人化して第2種旅行業登録を取得。


プロモーションによって熊野の知名度は高まりつつありましたが、実際に来ていただくには大きな壁がありました。


これでようやく、「プロモーション」と「運ぶしくみ」という旅客誘致に必要不可欠な「車の両輪」が揃いました。




組織のコンセプト・活動の特徴


コンセプトは、「世界に開かれた、持続可能な質の高い観光地を目指す組織」です。


私たちの組織の最大の特徴は、日本国内だけでなく、FIT(外国からの個人旅行者)にも対応できるDMCであることです。


この面で、私たちが取り組んできたことを段階的にまとめてみます。



(第1段階)外国人スタッフの雇用


外国人観光客を呼ぶためには外国人の感性が必要ということで、英語圏からのスタッフを国際観光推進員として雇用しました。統計調査の分析やアンケートを行い、外国人旅行者の動きやニーズの実態を知ることから始め、当面の外国人ターゲットを欧米豪と在日外国人の個人旅行者に絞っていきました。



(第2段階)情報発信


作成するパンフレット、マップ、ポスターなどの全てを日英併記とし、ホームページを中心に情報発信することにしました。


世界遺産になったとはいえ、外国人旅行者や外国の旅行業界関係者にとってゴールデンコースといわれる観光地(京都・大阪)からは離れた地域であり、それまでほとんど情報がありませんでした。


そのため、新鮮さもあったのか、特にホームページの効果は絶大でした。


2012年1月の外国人モニターツアー


今では30を超える国々からのアクセスがあります。中でも多いのは、フランス・アメリカ・オーストラリア・スペインといった国々からのものです。
情報発信全般で最も心がけているのは、外国人の感性に合わせた質の高い翻訳を行うことです。日本の歴史や文化に知識のない外国人にも理解できるよう、表現を一からつくり上げていくことも少なくありません。


そのほかに、プレスツアー、エージェントファムトリップの誘致や商談会参加による売込みなども積極的に行っています。


2008年のエージェントファムトリップの様子。毎年定期的にプレスツアーやエージェントファムを実施している。



(第3段階) 受け入れ地のレベルアップ


現代は、上手に情報発信して海外から観光客を招いたとしても、受け入れ地としてのホスピタリティが欠落していれば、二度と来てもらえないどころか、悪い口コミがインターネットを通じて世界中に広まってしまいかねない時代です。


そこで、特に、設立後3年間は半分以上のエネルギーを「受け入れ地のレベルアップ事業」に費やしました。


具体的には、ワークショップ形式を取り入れた研修会を延べ60回近く開催するなどの方法で、関係者の意識を高めるための努力をしてきました。


また、「指差しツール」を作成し、「笑顔があれば英語が話せなくても大丈夫! 指差しツールで外国人とコミュニケーション」をキャッチフレーズに、業種別のカリキュラムを揃えてきめ細やかに研修しました。


おかげさまで、それまで外国人が訪ねてくると困り果て、玄関で靴を脱ぐことすら伝えられなかった民宿のご主人が、今では「英語が話せなくても何とかなるものですね~」などと話しかけてくださったりもします。


旅に「食べること」は不可欠な要素です。


商工会議所などと連携しグルメマップを作成して、市街地の飲食店23店舗に英語版メニューを設置しました。


これらの多くの関係者が実体験を基に自ら考えて出し合った指差しツールの資料と飲食街の居酒屋メニューは、すべてが英語に翻訳され、必要に応じてすぐに活用することができます。


また、熊野古道を何日もかけて踏破しようとする方々のために、一軒一軒の民宿との契約を進め、契約施設だけで「踏破可能」にすることに注力しました。


当初は手数料について不本意さを表明される方や「外国人なんて……」と尻込みされる方もおられましたが、スタッフが何度となく各地に足を運んで問題をクリアしました。


ご高齢の方が多いため、FAXやメールでのやりとりに不安な方が少なくないといった問題もありました。


私たちは、中間支援組織として、今もインターネットやFAXで予約受付を行った後には電話で宿の受け入れ確認を行うといった形(表のハイテク+裏のローテク!)で、1件1件のお申し出に対応しています。


以上のような諸事業に関する膨大なコンテンツが、当ビューローの大きな財産になっています。



DMOとしての将来ビジョン


売上は、準備期であった2010年度下半期が700万円、2011年は東日本大震災・台風12号による被災があったにもかかわらず、4000万円(目標3000万円)を達成することができました。


震災後2カ月くらいはほぼ全ての予約がキャンセルとなり、台風被災後は、復興はもとより風評被害の払拭にも相当な時間を要しましたが、これらの経験を通して組織としての底力が蓄えられたと思います。


今後はご紹介したような基礎的な事業の成果を引き継ぎ、ある意味では「手を変え、品を変え」試行錯誤を繰り返しながら、持続可能な観光地づくりに取り組んでいくことになります。


たとえば、2008年10月からは、熊野古道と同じく巡礼道としての世界遺産(サンティアゴの道)を有するスペインのサンティアゴ・デ・コンポステラ観光局との、共同プロモーションを民間団体同士でスタートさせています。


私たちが行っているのは、多くの自治体で行っている友好交流連携事業ではなく、実際に誘客を促進するためのプロモーションです。


世界遺産の巡礼道としてコラボレーションすることで情報発信力を高め、共通のパンフレットやホームページ等を作成し目的意識の高い旅行者の誘客に取り組みます。


また、2011年5月には『ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン』で、熊野古道が「わざわざ旅行する価値がある」を意味する三つ星(★★★)を獲得しました。


2009年発売の初版では二つ星でしたので、三つ星に格上げされるよう国際観光推進員を中心に受け入れ地の整備に努めてきましたが、そうした努力が実を結んだ形です。


今後インバウンドを展開していく中で、このミシュランの三つ星は、大きなセールスポイントとなるはずです。その名に相応しい受け入れ地の整備を今後も進めていきます。


以上のような活動が一定の評価を受け、2012年には世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)が主催する「明日へのツーリズム賞」(Tourism for Tomorrow Awards)選考会の「デスティネーションの管理」部門において、日本では初めて最終選考3団体の中に選ばれました。



田辺市熊野ツーリズムビューローと行政との関係


行政との関係では、ソフト・ハードの両面で和歌山県や田辺市の事業に積極的に関わっています。世界遺産熊野古道ルートサインの英語併記、世界遺産熊野本宮館建設に伴う、展示物及び各種媒体等英語併記がその代表例です。


実は、DMC事業を始めた理由の1つに、行政からの資金に頼りっぱなしではいけないとの思いがありました。


活動は概ね順調に推移しており、市からの助成に頼る従来の観光協会像からは脱しつつあると自負していますが、DMCによる利益は売上の1割程度。実際にはまだスタッフ1名の雇用がやっとといったところです。


その意味では、田辺市からの年間約3000万円のプロモーション費は、今も私たちの活動にとって必要不可欠なものとなっています。


組織がステップアップしていく過程で、国や県からの支援も受けてきました。


今は和歌山県により、「総合特区」(一定の研修を経ていれば通訳ガイドの資格なしに高野・熊野地域を外国語案内できる)申請を行っていただいています。


また、外国人を受け入れるシステムの構築には、総務省の「ユビキタス」事業や「地方の元気再生」など、国の制度を活用させていただきました。



組織の抱える課題および今後の展望


これからは実際にお客様を運び自ら稼ぐことに、より一層の力を注ぎたいと考えています。


このことにより、組織を安定させるとともに、地域の経済効果を生み出していかなければなりません。


それには、FITという今までになかったマーケットに参入し、さらに中間支援組織としての機能を充実させる必要があります。そうすることで、10数パーセントのコミッションが出発地のエージェントに吸い上げられることなく地域に残るようになります。あるいは地域活性化のための資金として巡回していくようになります。


雇用面では、たとえば、有料の「語り部」・「ガイド」組織が、熊野古道の中辺路エリアだけですでに6つ存在しており、年間売上を合計すれば恐らく数千万円に登るのではないかと見られています。「1つの組織にする方がよいのでは?」という声も耳にしますが、それぞれの「こだわり」や得意分野を活かして切磋琢磨いただき、ホスピタリティをレベルアップしていくという面からも、今の状態のほうが望ましいかもしれないと見ています(ちなみに、田辺市街地の案内はボランティア組織が運営。また、外国人案内に特化したNPOが1つあります)。


着地型旅行事業の拡充の一方で、今後も田辺市からのプロモーション費をいかに確保していくかという点が組織としての大きな課題であり、経済効果を試算するなどの形で理解を求めています。


2011年の台風12号による被災後には、熊野古道の修繕を盛り込んだツアーを企画。


ちなみに、2006年度~2010年度の国内のメディア露出の広告換算は約10億1千万円、情報到達人数は約1億9500万人という結果でした。


当面の目標は、情報量やサービス提供者の契約件数を増やし、この地域を知り尽くしているからこそできる魅力的な旅行商品の造成に注力していきつつ、「熊野古道を歩く人をどんどん増やしていく」ことです。


またゆくゆくは、和歌山県だけでなく奈良・三重の両県ともさらなる連携を深め、紀伊半島全域をエリアとしたDMCへと成長していくことも目指したいと思っています。



【組織概要】


一般社団法人 田辺市熊野ツーリズムビューロー
和歌山県田辺市中屋敷24-1
TEL 0739-26-9025  FAX 0739-26-5820
http://www.tb-kumano.jp/


2006 年4月  ※法人設立は2010年5月
事務局員数:8名(市からの派遣職員1名、正職員5名、パート・アルバイト2名)


主な事業
●国内外へのプロモーション
●着地型観光事業に特化した活動をおこなっている。
※収益は、宿泊施設・ガイド等の斡旋手数料と、個人旅行者を基本とした募集型ツアーからの収益に大別できる。

 

 

 

こんにちは ゲスト さん

ID とパスワードが正しくありません。
ID
PASS
全国地域オペレーター創造ネットワークとは?
全国地域オペレーター創造ネットワーク

「観光地域づくりプラットフォーム」をはじめ、補助金依存からの脱皮に挑戦する「観光協会」など、観光地域づくりの中核組織の発展をとおして、わが国の観光による地域活性化に寄与することを目的とします。(詳細はこちら)



地域会員としてご登録ください。
会員登録

観光地域づくりプラットフォーム推進機構の会員としてご登録ください。中央省庁の施策やそれにともなう補助金情報、および観光マーケティングやブランドマネジメント・地域資源活用といった経営に役立つ情報をご提供します。また会員間での情報交換を促進し、各地での先進的な取り組みや成功事例などもご紹介します。なお、会員登録をされた場合はメルマガ登録は不要です。

賛同者としてご登録ください。
メルマガ

観光地域づくりに役立つ各種情報をお届けします。

メルマガ登録はこちら